- 購入・消費の促進
目次
「市場浸透戦略」は、今ある製品やサービスを、今いるお客様にもっと好きになってもらうという非常にシンプルな考え方です。
本記事では「市場浸透戦略とは何か」という基本から、それを成功に導くための具体的な5つのアクションまでを企業の成功事例とともに解説します。記事を読み終える頃には、あなたの会社が次に取り組むべきアクションプランがきっと見つかっているはずです。
「自社の売上やシェアを、もっと伸ばしたい!」そう考えたとき、まず検討すべきなのが「市場浸透戦略」です。
ここでは市場浸透戦略の基本から、「新規市場開拓」や「新商品開発」といった他の成長戦略と何が違うのかまでを解説します。
市場浸透戦略とは、すでにある製品・サービスを既存の市場(顧客層)でシェアを高めていく戦略です。新しい製品を開発したり、未知の市場に挑戦したりするのに比べて、失敗するリスクやコストが低いのが大きな特徴になります。
この考え方は、経営学の有名なフレームワーク「アンゾフの成長マトリクス」における4つの戦略のひとつです。
製品・サービス | |||
既存 | 新規 | ||
市 場 | 既存 | 市場浸透 | 新商品開発 |
新規 | 新規市場開拓 | 多角化 |
例えば、スーパーでいつも買うお菓子が「今だけ増量中!」と書かれていたら、つい手に取ってしまいませんか?これも、企業が「既存のお菓子」を「いつものお客様」にもっと買ってもらうための身近な市場浸透戦略の一例なのです。
市場浸透戦略と、他の3つの成長戦略(新規市場開拓、新商品開発、多角化)との決定的な違いは、「新しいもの」に挑戦するかどうかです。
市場浸透戦略は「今あるものを深掘りする」守りに近い戦略。これに対し、他の3つは「新しい製品」や「新しい市場」という未知の領域に踏み出す、より挑戦的な戦略です。
それぞれの違いを表で見てみましょう。
戦略 | アンゾフのマトリクス | 特徴 | 具体例 |
---|---|---|---|
新規市場開拓 | 「既存の製品・サービス」×「新しい市場」 | 今までと同じ製品・サービスを、これまでとは違う顧客層や地域(例:国内だけでなく海外)に販売する戦略 | 子供服ブランドが、大人向けのサイズを展開する |
新商品開発 | 「新しい製品・サービス」×「既存の市場」 | すでに関係のある顧客層に向けて、新しい製品やサービスを開発・販売する戦略 | スマートフォンメーカーが、同じブランドでワイヤレスイヤホンを発売 |
多角化 | 「新しい製品・サービス」×「新しい市場」 | 新しい製品やサービスを、これまで取引のなかった新しい市場に投入する戦略 | カメラのフィルムメーカーが、その技術を活かして化粧品事業に参入する |
自社の体力や置かれている状況を冷静に分析し、どの戦略が今最も適しているのかを見極めることが着実な成長につながるのです。
市場浸透戦略に取り組むことで得られるおもなメリットは、次の3つです。
また、どのような戦略にも落とし穴は存在します。ここでは、戦略を進めていくうえで知っておきたい注意点についても解説します。
市場浸透戦略が持つ最大のメリットは、新しい事業に挑戦するよりもはるかに少ない費用とリスクで始められる点です。
ゼロから製品を開発したり、文化の違う海外市場を開拓したりするのとは違い、すでに自社が持っている資産を最大限に活用できます。大きな失敗を避けながら、着実に成長を目指せる、いわば「地に足のついた」戦略といえます。
【ポイント】
・新しい製品を作るための研究開発費がかからない
・すでにお客様がいる市場なので、お客様の好みやニーズを把握できている
・今ある工場や店舗、Webサイトをそのまま使えるため、新たな投資を抑えられる
市場浸透戦略は、すでにお付き合いのあるお客様(既存顧客)との絆を深め、安定した売上基盤を築くことにつながります。
お客様が「このお店(ブランド)が好きだ」と感じてくれるようになれば、安定して商品やサービスを買い続けてくれるため、会社の売上も安定しやすくなるのです。
【ポイント】
・お客様の購買データなどを分析することで、一人ひとりに合ったおすすめ商品やサービスを提案できる
・定期的なキャンペーンのお知らせや、会員限定の特典を用意することで、お客様は「大切にされている」と感じ、ブランドへの愛着や信頼が深まる
・ブランドへの愛着が強いお客様は、多少の値段の違いでは競合他社に乗り換えにくくなる
会員獲得の施策について詳しく知りたい方は、下記の記事もぜひご覧ください!
市場浸透戦略で行う施策は、その成果が比較的短い期間で現れやすいという点も大きなメリットです。なぜなら、すでに自社の製品やサービスを認知し、ある程度の関心を持ってくれている既存顧客を中心にアプローチするからです。
【ポイント】
・新しい市場と違い、ブランドの認知度を上げるための時間やコストを大幅に削減できる
・既存顧客にはメールマガジンやSNS、アプリなどを通じて直接情報を届けられるため、施策がすぐに伝わる
・期間限定のセールやキャッシュバックキャンペーンなど、短期間で実施・完了できる施策が多い
「キャッシュバックを自社で進めたいけど、何から始めればいいのかわからない」という方は、キャッシュバックの基本と仕組みがわかる「キャッシュバックまるわかりガイド」をぜひご覧ください。
多くのメリットがある市場浸透戦略ですが、必ずしも万能というわけではありません。
戦略を進めていくうえで、「市場の飽和」と「価格競争」という2つのリスクには注意が必要です。この戦略は、あくまで「既存市場」での成長を目指すため、その市場自体に伸びしろがなければ、いずれ頭打ちになってしまいます。
ここで安易に「値下げ」に頼ってしまうと、非常に危険な状態に陥ります。「他社が値下げしたなら、自社はもっと安くする」という価格競争が始まれば、お互いの利益を削り合うだけの消耗戦になり、業界全体が疲弊してしまうでしょう。
【ポイント】
・市場にいるほとんどの人がすでに製品を使っている場合、それ以上シェアを伸ばすのが困難
・値下げでお客様を惹きつけようとすると、ライバル会社も同じように値下げで対抗し、お互いの利益を削り合うだけの消耗戦になる
・「あそこはいつも安い」というイメージが定着すると、品質やサービスで評価されなくなり、ブランドの価値が下がってしまう
ここでは、市場浸透戦略を成功に導くための代表的な5つの施策を解説します。
自社の製品やサービス、そしてお客様の顔を思い浮かべながら、「自社ならどの施策から試せるだろう?」と考えてみてください。
お客様の「買いたい」という気持ちをダイレクトに刺激する、最もポピュラーな施策がプロモーション(販売促進)と価格戦略です。
期間限定のセールやお得なクーポンは購入を迷っている人の背中を押し、普段は買わない人にも「今なら」と思わせる力を持っています。
【具体的な施策】
・販売促進活動:期間限定の割引セールやクーポンの配布、SNSでのプレゼントキャンペーンなどを実施し、短期的な購買意欲を刺激する
・広告・宣伝:テレビCMやWeb広告などを活用し、ブランドの認知度や好感度をさらに高める
・市場浸透価格戦略:新製品ではないものの、あえて初期段階で価格を低く設定し、競合から一気にシェアを奪うことを狙う
「この商品は、こんなときにも使えるんだ!」という新しい使い方や利用場面(シーン)を提案することで、新たな需要を掘り起こす。これも製品自体を変えずに売上を伸ばせる、非常に賢い施策です。
お客様が持っている「これは〇〇に使うもの」という固定観念を、良い意味で壊してあげることが目的になります。
【具体的な施策】
・時間帯の拡大:これまで利用が少なかった時間帯に向けた提案(例:飲食店のモーニングメニュー)
・イベント・季節連動:クリスマスやハロウィンといったイベントに合わせたパッケージや使い方を提案
・用途の多様化:製品の意外な活用法を紹介(例:調味料の新しいレシピ提案、アウトドア用品の防災グッズとしての提案)
お客様に「このブランドのファンで良かった」と感じてもらい、継続的に利用してもらうための施策が顧客ロイヤルティの向上です。
熱心なファンは商品を買い続けてくれるだけでなく、友人や家族に「あの会社の商品は良いよ」と勧めてくれる、いわば「歩く広告塔」のような存在になってくれます。価格競争に巻き込まれない、安定した経営を目指すうえで欠かせない考え方です。
【具体的な施策】
・会員制度の導入:ポイントプログラムや会員ランク制度を設け、利用すればするほどお得になる仕組みづくり
・限定コンテンツの提供:会員だけが参加できるイベントや、先行販売、限定商品の提供などで特別感を演出
・コミュニティの形成:ファン同士が交流できるオンラインサロンやイベントを運営
価格は変えずに製品やサービスの中身を良くすることで、お客様の満足度を引き上げる。これも、市場浸透戦略における重要な施策です。
「同じ値段なのに、前より良くなった!」というお得感は、お客様の信頼を勝ち取るうえで非常に効果的です。
【具体的な施策】
・機能の追加:小さな機能を追加(マイナーチェンジ)して、利便性を向上させる
・デザインの刷新:パッケージや製品自体のデザインを新しくして、魅力を高める
・クロスセル・アップセル:今使っている製品と合わせて使える関連商品(クロスセル)や、より上位のモデル(アップセル)を提案する
お客様が「欲しい」と思ったときに、いつでもどこでも製品を買いやすくなるよう、販売網(チャネル)を見直す施策です。
どんなに良い製品でも、お客様がそれを手軽に買えなければ売上にはつながりません。お客様との接点を増やし、販売の機会損失を防ぐことが目的です。
【具体的な施策】
・オンライン展開の強化:自社のECサイトを立ち上げたり、Amazonや楽天市場などの大手ECモールに出店したりする
・取扱店舗の拡大:これまで商品を置いていなかった地域のスーパーや専門店など、新しい小売店に営業をかける
・新たな販売方法の導入:デリバリーサービスとの提携や、モバイルオーダーシステムの導入を進める
理論や施策を学んだだけでは、まだ知識は平面的です。その知識を立体的で実践的な知恵に変えるために、ここからは具体的な成功事例を見ていきましょう。
「施策1.プロモーションと価格戦略」を巧みに活用し、世界中の人々を魅了し続けているのがコカ・コーラです。
コカ・コーラの戦略が秀逸なのは、単なる値引きに頼るのではなく、「楽しい」「共有したい」といった体験価値を提供することで購買につなげている点です。
【ポイント】
・コラボラベル・キャンペーン
①ヒット曲の歌詞や、人気キャラクターをラベルにデザインするなど、消費者が思わず手に取り、SNSで共有したくなるような企画を次々と展開
・リボンボトル
①クリスマスの時期になると、ラベルの一部を引っぱるだけで華やかなリボンが完成する「リボンボトル」が登場
②パーティーシーンでの需要を喚起し、購入する「きっかけ」を巧みに創出
「コカ・コーラがあるだけで、場が盛り上がる」というブランドイメージを確立し、価格競争とは無縁の確固たる地位を築いています。
お客様の購買意欲について、さらに詳しく知りたい方は下記の記事も参考にしてください。
「施策2.新たな利用シーンの提案」によって巨大な市場を作り出した成功事例が、マクドナルドの「朝マック」です。朝マックが登場するまで「朝からハンバーガーを食べる」という習慣は、日本ではほとんどありませんでした。
マクドナルドは、「出勤や通学前の忙しい時間に、手軽で温かい朝食を食べたい」という、まだ誰も気付いていなかった潜在的なニーズに目をつけたのです。
【ポイント】
・「朝マック」の導入
①ソーセージエッグマフィンやハッシュポテトなど、朝の時間帯に特化したメニューを開発
②出勤・通学前の忙しい人々のニーズをとらえ、これまで手薄だった朝の売上を大きく伸ばした
「朝マック」の成功によりお客様の来店頻度が高まり、ブランドへの接触機会を増やすことにもつながりました。これまでは「ランチ」の選択肢となることが多かったマクドナルドが、「一日中、どんなときでも頼りになる存在」へと進化した好事例です。
「施策3.顧客ロイヤルティの向上」を追求し、お客様を熱狂的な「ファン」に変えることで成長を続けているのがスターバックスです。
スターバックスの強みは、おいしいコーヒーだけでなく、「サードプレイス(家でも職場でもない、第三の心地良い居場所)」という特別な顧客体験を提供している点にあります。そして、その体験をさらに向上させているのがデジタル活用によるファン育成です。
【ポイント】
・モバイルオーダー&ペイ
①公式アプリで事前に注文・決済ができる仕組みを導入
②レジに並ぶ時間をなくし、スマートな購買体験を提供することで、顧客満足度を大幅に向上
・リワードプログラム
①利用金額に応じてポイント(Star)が貯まり、ドリンクやフードと交換できるプログラム
②利用すればするほどお得になるため、再来店への強力な動機付けになっている
アプリを通じて一人ひとりに合わせた新商品やおすすめの情報が届くことで、お客様は「大切にされている」と感じ、ブランドへの愛着を深めていきます。こうした緻密なデジタル戦略によって、「私の毎日を豊かにしてくれる、なくてはならないパートナー」という地位を確立しているのです。
自社アプリのダウンロード数を増やして効果的なプロモーションを実施したいとお考えの方は、下記の記事もご覧ください。
「施策4.製品・サービスの価値向上」を追求し、競争の激しい動画配信市場でトップを走り続けているのがNetflixです。
Netflixは、巨額の資金を投じて質の高いオリジナル映画やドラマシリーズを次々と制作。世界的な大ヒット作を生み出し続けることで、お客様が月額料金を払い続ける最大の理由となっています。
【ポイント】
・オリジナルコンテンツへの集中投資
①アカデミー賞を受賞するような質の高い映画や、世界中で話題になるドラマシリーズを自社で制作
②これが、ユーザーがNetflixを選び、契約し続ける最大の理由になっている
・独占配信
①他社では観られない人気アニメや海外ドラマの独占配信権を獲得し、サービスの魅力をさらに高めている
「おもしろいコンテンツさえあれば、お客様はついてくる」という信念のもと、製品(コンテンツ)の価値向上に集中投資する。これが他社には真似しづらい、圧倒的な差別化要因となっているのです。
「施策5.販売チャネルの最適化」を実現し、お客様の利便性を効果的に高めているのがユニクロです。日本中に広がる実店舗網と、使いやすいオンラインストア。この二つをシームレスに連携させることで、いつでもどこでも快適な買い物体験を提供しています。
【ポイント】
・店舗受け取りサービスの拡充
①オンラインストアで注文した商品を、近所のユニクロ店舗で送料無料で受け取れるサービス
②お客様は送料を気にせず買い物でき、店舗側はお客様の来店による「ついで買い」も期待できる
・在庫連携の強化
①公式アプリを使えば、欲しい商品の在庫がどの店舗にあるかをリアルタイムで確認可能
②「お店に行ったのに在庫がなかった」というがっかり感をなくす
オンラインと実店舗の垣根をなくし、お客様にとって最も便利な購買方法を提供する。この「OMO(Online Merges with Offline)」と呼ばれる戦略は、多くの小売業が目指す姿といわれています。
オンラインとオフラインの効果的な宣伝方法を、厳選して下記の記事にまとめました。気になる方は、ぜひご覧ください。
コカ・コーラやユニクロといった大企業の事例を見ると、少し難しく感じるかもしれません。しかし、この戦略の本質は「今ある資産を最大限に活かす」という、地に足のついた考え方です。大切なのは、まず自社のお客様を深く理解し、彼らのために何ができるかを考えることです。
今回紹介した5つの施策の中から、まずはひとつでも試せそうなものがないか、ぜひ自社で話し合ってみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、未来の大きな成長へとつながっていくはずです。
なおウォレッチョでは、キャッシュバックやアンケート、抽選会などの各種キャンペーンの企画立案から事務局運営までを幅広くサポートしています。
またBtoC送金サービスとしての側面も持ち、ATMからの現金受け取り・銀行口座振込・その他3つの電子マネーを送金方法としてご用意。各種キャンペーンの運用・支援実績も豊富です。
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株式会社スコープ ウォレッチョ事業責任者。スコープ入社後、大手流通・外資系日用品メーカーなどの販促支援に従事。大手アパレル×衣料用洗剤ブランドタイアップ、家電ブランド店頭販売員教育プログラムのデジタル化などの新規案件を数多く担当。キャッシュバック販促のDXから着想を得て、2021年にウォレッチョ事業を立ち上げ~現職。